渋パブ・リレー・エッセイ (RELAY ESSAY)

弁護士任官について

2009.4.25

東京高等裁判所判事 大沼和子

私は,1987年(昭和62年)に弁護士登録をし,昨年4月に弁護士21年目を迎えましたが,10月1日に弁護士任官をして,現在,東京高等裁判所の民事部で判事の仕事をしています。

裁判官になるのは,司法修習を終了してすぐに任官する方が圧倒的に多いのですが,弁護士任官といって弁護士を経験してから裁判官となる途も開かれており,現在までに100人前後の弁護士が裁判官となっています。なぜ弁護士任官をするかというと,司法試験の合格者を増やすことなど司法の民主化が進んでいますが,その一つの重要な要素として,法曹一元ということがいわれています。つまり,依頼者と直接に接してきた弁護士が裁判官となることによって,その幅広い経験を活かして多様な紛争について社会常識に則った適切な紛争解決を図るためといわれています。私の場合,それに加え,個人的な気持として,せっかく弁護士任官という途が開かれているのだから,弁護士とは違った視点から紛争解決と人権救済に関わってみたいと考え,思いきって任官しました。長年続けてきた弁護士生活に,一旦,終止符を打って任官をするにあたり,いろいろな悩みや苦労がありましたが,その最も大きな課題であった事件の引き継ぎなどは,東京弁護士会のバックアップの下に公設事務所である渋谷パブリック法律事務所に半年間,お世話になり,所員の皆様の大変,暖かいご理解とご支援を得て無事に乗り切ることができました。

現在,裁判官になってから半年余りが経ち,私なりに弁護士と裁判官の仕事の違いを考えてみると,弁護士の仕事は,公害や子どものいじめの問題のように、緊喫の課題であるのになかなか知られていない問題を発掘し,依頼者に寄り添って法的に解決する方法を見つけ出す,つまり依頼者と共に能動的に活動できることに最も魅力がありますが,他方,裁判官はその問題提起を受けて双方当事者を始め,いろいろな立場の見方を踏まえ,中立公平な立場で,自分の名前で(自分の責任で)最終判断をすることに意義があると思います。このように弁護士と裁判官は,役割の違いはありますが,適切な紛争解決と人権救済という目指すところは同じと思います。実際に,これまで近くで接した裁判官もそのことにやり甲斐と仕事の意義を見いだして仕事をしておられると感じます。また,これは大変印象に残ったことですが,たとえば,私がドミニカ移民訴訟に携わったときに法律扶助の助けを借りながら少ない費用で6,7人の弁護士で弁護団を組みましたが,その際,相手方の国は給与を得ている多数の指定代理人を送り込み,資金と人力面で随分と基盤が違うと感じていました。しかし,そのことを同じ部の裁判官にお話したところ,裁判官は,どのように難しい事件,重要な事件でもたった3人で取り組んで結論を出さなければならないと言われました。つまり,当事者側は多人数で事件に取り組むことができますが,裁判所では事件を担当するのは多くて合議体の3人の裁判官だけということです。もちろん,当事者がいろいろ考えて提出する主張と証拠に基づいた上での話ですが,これはなかなか大変なことだし,裁判官には当事者である弁護士とは違う苦労があるのだと思いました。

さて,裁判官になってからの実際の生活ですが,一日中,裁判所にいて,弁論期日に法廷に出向くか,和解をするほかは,基本的には記録読みと判決書きに没頭する毎日です。毎日,いろいろなところを駆け回り多くの方と接してきた弁護士時代と全く生活環境が違うので,当初は,緊張感や息苦しさと共にとまどいもありましたが,現在はだいぶ慣れ,記録読みの合間に何かのきっかけがあると同じ部の裁判官とおしゃべりをしたり,お昼休みには日比谷公園を散歩するなどして楽しく過ごしています。

今後,私が,弁護士経験を具体的にどのように活かしていけるか,まだわかりませんが,たとえば和解のときに,当事者に緊張感を解いてもらうために私の名前を伝えて挨拶をする(このことは,最近,他の裁判官も既に実施されていることが多いようです),簡単なことであれば自分で和解室から出て廊下で待っている当事者に説明をした上で和解室で双方に話し合ってもらうなど,当事者に率直な気持や考えを出してもらえるように心がけています。

最後になりますが,多様な事件を解決するためには,多様な考えや経験を持った裁判官が必要と思いますし,そのためには,今後も弁護士任官者がもっと増えていってほしいと思います。こうした法曹一元に少しでも近づくために,ロースクール生や修習生の方も将来の途の一つとして一旦弁護士になった後に裁判官となる弁護士任官という制度があるのだということを頭の片隅に置いていただき,弁護士の方にも是非,真剣に弁護士任官を考えていただいて,力を合わせていければと思います。それでは,裁判所で首を長くして今後の弁護士任官者をお待ちしております。