リーガルクリニックニュース (LEGAL CLINIC NEWS)

平成23年度公開模擬裁判員裁判
2011.11.23

平成23年11月23日(勤労感謝の日)に,國學院大学法科大学院の2年生有志による公開模擬裁判員裁判が行われました。

この模擬裁判は,國學院大学法科大学院の2年次必修科目であるリーガルクリニック初級の授業において使用されたものと同じ題材で行われています。しかし,題材をもとに,どのような訴訟活動を行っていくかの台本はありません。
学生は,リーガルクリニック初級の授業において刑事模擬裁判の検察官,弁護士,裁判官役を担当する中で,それまでに学んだ法律論をもとに,具体的な裁判においてどのような活動を行っていく必要があるのかを学ぶとともに,裁判員裁判において重要とされる法廷技術を身につけ,この模擬裁判に当てています。そして,模擬裁判では,地元渋谷区の市民の方々に模擬裁判員としてご参加いただいており,学生が授業で磨いた法廷技術をもとに行われた審理,裁判官役の学生との評議を行っていただいて実施されています。


今回の模擬裁判は殺人未遂被告事件が題材となっており,被告人が,被害者とされた人を刺すつもりがあったのか,その際,殺すつもりがあったのか,また,捜査段階の被告人の殺意を認めた供述調書の任意性,信用性が争点となっています。
裁判の中では,被告人のほか,被害者の怪我を診た医者,被告人を捜査段階で取り調べた警察官,被害者本人が証人として登場しており,当事務所の弁護士がこれらの登場人物として証言や供述を行っており,本番さながらの模擬裁判員裁判の実施に一役買っています。

 さて,模擬裁判がいよいよ開演しました。
冒頭手続では,検察官役が公訴事実を読み上げた後,被告人役の佐田弁護士が,殺すつもりはなかったなどと述べると,裁判員役の方々も被告人をじっと見つめていました。

冒頭手続が終わると,証拠調べ手続に入ります。証拠調べ手続では,まず,冒頭陳述が行われます。冒頭陳述は,検察官と弁護人が,裁判所に対し,それぞれの事件の全体的なストーリーを伝え,そのストーリーを裏付ける事実をどのような証拠で立証するのかを印象づけるもので,コンパクトで要点をついた内容が求められます。
検察官役,弁護人役の学生は,書面を見ることなく,しかも,ただ暗記したものを読み上げるのではなく,それぞれが伝えようとするストーリーを頭に入れた上で,裁判所にそのストーリーを訴えかけており,裁判官役の学生や,裁判員の方々は,メモを取ったり,うなずきながらそれぞれの冒頭陳述に聞き入っていました。

冒頭陳述の次は,3名の証人尋問が行われました。それぞれの証人の証言は,裁判所が判決を考える上で非常に重要な証拠であり,検察官役,弁護人役の学生にとっても,効果的な尋問をすることができるか,という点で腕の見せ所となります。
今回の模擬裁判では,医師が被害者の傷を診た際の状況や,警察官が被告人を取り調べたときの雰囲気,そして被害者が被害を受けたときの被告人や被害者の動き等,ただ話を聞いていくだけでは裁判所には伝わりにくいものを尋問で明らかにしていく必要があります。そのため,検察官役,弁護人役の学生は,傷の場所について図を示しながら質問をしたり,被告人を取り調べたときに警察官が使った言葉や,そのときの口調,取調べの時間等,具体的な質問を重ねて被告人が自白に至った場面を思い浮かべられるようにするほか,被害者からは,被告人とのいさかいの経緯を踏まえて,刺されたときの被告人と被害者の位置関係や被告人と被害者の動作を再現したりするなど,よく練られた質問をメモ等も見ることなく投げかけることで,どのようなことが起きたのかを思い浮かべられるような証言を引き出す工夫をしていました。また,反対尋問では,それぞれ誘導尋問を駆使し,証人の証言の信用性を疑わせる事情を明らかにしていきました。
また,被告人質問では,弁護人役の学生は,事件の経緯や被害者が傷を負ったときの状況等,重要な点について丁寧に質問を重ねてディテールを明らかにすることで,なぜ今回被害者が怪我をすることになったのか,という被告人側のストーリーを裏付ける事実を被告人自身に語らせており,検察官役の学生は,厳しい反対尋問で,殺すつもりではなかったという被告人の供述と,被告人の行動との矛盾点と思われる事情を明らかにするなど,迫力のある尋問が行い,裁判員の方々も,被告人の一言一言に耳を傾けていました。

証拠調べが終了した後,検察官役の学生の論告,弁護人役の学生の弁論が行われました。いずれも,それぞれのストーリーが今回の裁判で取り調べられた証拠によって裏付けられていることを説得的に語るもので,評議におけるポイントも明らかになるわかりやすい内容となっていました。パワーポイント等は使用せずに口頭での説得に重点をおいたもので,授業で学んだ技術が両者共にいかんなく発揮されたものとなりました。

審理の後,裁判員と裁判官役の学生は評議室に移動して非公開評議を行い,その間,会場では,國學院大学法科大学院の学生による裁判員制度についての説明が行われました。また,会場では今回の事件についての活発な議論も起こり,様々な意見が交換されました。

判決では,被告人に懲役5年との判決が宣告されました。結論の当否は別として,検察官や弁護人の主張を踏まえた上で,証拠の信用性等についても,裁判員役の方々と裁判官役の学生で,短い時間ながらも充実した評議が交わされた結果としての判決となりました。

なお,今年度も國學院大学の法学部生有志による裁判体が結成され,そちらのでも結論が出されていますが,こちらは傷害罪で有罪という結論になりました。このことからも,結論に非常に悩む事案ではあることが窺われますが,裁判員役の方々には,積極的に評議に参加し,鋭い指摘もいただくことができ,大変充実した模擬裁判となりました。

来年度も,11月ころの実施を予定しております。具体的な時間等が決まりましたら,様々な形でお知らせいたしますので,気軽にお立ち寄りいただければと思います。