トピックス (TOPICS)

  合格者インタビュー
〜テーマ:臨床法学教育と新司法試験〜

聞き手:今泉亜希子(渋谷パブリック法律事務所弁護士)
・大関慎也(國學院大学法科大学院卒:第62期司法修習生)
・松岡直哉(同上)
・インタビュー日時:平成20年11月24日

―今日は,今年度國學院大學法科大学院を卒業し,見事今年度の新司法試験に合格された,大関さんと松岡さんに,リーガルクリニックと新司法試験というテーマでお話しをお伺いしたいと思います。
まずは簡単な自己紹介をお願いします。

大関慎也(以下,O):私は生命保険会社で勤務した後、國學院大學法科大学院に入学しました。大学の学部は経済学部で、純粋未修者です。

松岡直哉(以下,M):私もサラリーマンとして金融関係の会社で営業や債権回収をへて法務を担当した後、國學院大学法科大学院に入学しました。法学部出身で、会社で法務の仕事はしていましたが、本格的に司法試験の勉強を始めたのはロースクールに入ってからです。

――早速ですが、新司法試験との関係で、リーガルクリニック上級(以下LC)を受講して良かった点はありましたでしょうか、またあったとしたら、どのような点がそうだったのでしょうか。

0:演習科目の場合は判例を題材にするので,当然のことながら,裁判所が認定した事実に基づいて,どう考えるかという形で授業が行われるわけです。クリニックの場合はそれが全く違って,そもそも認定された事実が与えられているわけではありません。担当の弁護士の先生とヒアリングをしながら,今抱えている問題が何なのか,どういうところが重要なのか,どういう方向で解決したいのかなどを含めて,問題点を自分で聞いて,依頼者が望む方向に向かって理論立てをしていく,考えていくという授業だったととらえています。
それが試験にどうつながったかというところですと,新司法試験の場合は,事実が中に埋もれていてちりばめられていて,それが大切な事実か何なのか,それがどういう意味をもっているのかという評価を自分で加えながら,自分の目指したい方向性というか,結論の方向に結び付けて,答案・文章を作っていく。このプロセスは,クリニックでやった,事実を聞き出して,そこを,自分なりに評価を入れていって,目指す方向に向けて,訴状なり文章なりを作っていく,そのプロセスが試験と一致しているので,その意味で試験にすごく役立ったかなと思っています。判例を基にやっていた授業よりも,クリニックでやっていた方向性の方が試験には直結していたかな,と思います。

M:私の場合は,実務家になるために試験を受けて,最終的には弁護士の仕事をするというイメージが頭の中にできあがっていました。理論や知識も大事ですが,会社では,契約書作成など実務的なことをやってきていたので,特に理論を活用した実践こそが大事だという考えがありました。
そのため,実務がどう動いていって,どのような書面を作って,どのように提出して,どのような解決策をとるのかという体系的な流れを学ぶためには,ただ単に学校の講義などで授業を聞いていれば十分というわけではないと思います。 このようなことを学ぶ機会を得られるLCは,大変重要だと思います。
つまりは,お客さんと会って,解決方針を立てて,裁判をやるのかあるいは示談や和解の形で解決するのか,そのために必要な書面の作成や手続きを行うという流れを全部追えるという授業の体系を学んではじめて実務で対応できるので,ここで,ようやく勉強の成果が出せる,試験問題も実務的な解決を意識して作られているでしょうから,試験のために学んだことと,試験で答えるという実践が直結する機会を得られるという意味でこのLCはとても大事だと思っています。

O:僕も同感です。

――実務的なことが分かったと。で,授業は授業で理論的なことを講義でやると。この二つがリンクする瞬間というのは?

M:LCの事件の中で,隣人間のトラブルがあり,ほとんど条文も注意して見たことがなく試験にもあまり出てこないような,相隣関係の法律問題が争いになってしまった事件がありました。その争い方を考えた際に,授業では一応,解釈などを理解していたと思っていたつもりでしたが,「この条文はこういう風に解釈しなければならない」ということを改めてLCの先生に教わったとき,はじめて基本書等や条文に書いてあることの本当の意味がわかり,実務では,これらの条文がいかに重要であり,いかなるように活用されているかを感じて,いままでは表面的な理解だったのだということを強く感じました。その後,あわてて地役権ですとか,民法200条周辺の条文あたりを改めて勉強しなおしました。
また,会社法においても,取締役の報酬という,授業では論点として取り上げられていたものだったのですが,授業では論点としてこういうものだと頭の中に入っていて,解き方や解決方法のようなものも,さも分かったように答案にすらすら書いていたものの,実際にその事件に取り組んだときには,そんなに簡単にいくような話ではないという,乖離を改めて感じました。
つまり,通説や判例を崩して考えないと依頼人の利益は守れない,はたして実際の社会と比べて判例の考え方は本当に正しいのか,論点というものを,通説ではおかしいのではないかと感じて反対説が生まれるという過程,実際にそのような場面に直面してこそ,論点というものを本当に理解できると感じられて,すごく良かったと思うのです
そうすると,結局は,実務に即した解決策や考え方を問う問題が新司法試験ではでているため,問題点やそれに対しての解決策つまりは解答へのイメージが湧くのですよ。
特に,今年は民事系の問題の傾向が自分で考えるような問題が多かったのですが,見たこともないような論点や問題点を聞かれたときは、自分の思考しかないわけで,知識や理論が頭に入っていても,具体的な問題の場面が想像でき,解決策やこの事件はこうなるだろうなという見通しが浮かばないと,うまく答案も書けないのではないかと思います。
知識や理論を身につけ,実践の場面でそれらの問題と直面してそれらの活用方法を知るという点で,LCは役に立っていると思います。

――書く練習が足りないということがよくロースクールの学生の不満として挙げられますが,お二人ともLCで起案はしましたか?

O:はい。訴状を作りました。

M:いきなり民事系が高裁の事件で,40頁もある控訴理由書を書きました。それだけで体力を相当消耗しました(笑)。次は準備書面でした。

――書く前と書いた後で変わったこと,あるいは書いているプロセスの中でわかったことはありますか?

M:控訴理由書でいえば,拾わなければならない事実というのでしょうか,こちらが崩さなければならない相手方の主張や判決の判断がどこなのかというのを見つけたり,いままでの資料をひたすら読んで,何が重要なのか,なにが理由で敗訴したのか,今後どのように争うべきか等の指導を受けて,リーガルマインドとしての思考方法や分析力が相当に身についたと思います。

――そもそも何が争点なのかというのが抜き出されているわけではなく,与えられた判決という資料の中から,これが争点だということを探して,どういう風に自分は,自分だったらどう攻めていくかという論拠を自分で探し,それを事実から拾い,それを書面に起こすということを全部やったということですか?

M:はい。もちろん,LCの先生から概略の説明はあり,判決にも争点が現れていますが,複雑な事件でしたので,十分に争点がはっきりしておらず,記録を読み込んでいろいろ考えました。

――あんまりアドバイスは入らなかったのですか?

M:その先生の方針が,まずはやってみて,というものだったので(笑)

――作られた書面に対して,どういうコメントが来るのですか?

M:「全然駄目だね」と(笑)。ほぼ書き直し状態で,先生が朝の4時までかかって書き直されました。でも,講評はちゃんとしていただき,「ここはこういう風に甘い」とか,「この詰めが」とか,「ここはこう考えるべきじゃない」とか,「こんなとこ突いてもだめだ」と色々アドバイスをもらいました。
そのおかげで,よく分析をし,考え方を凝縮し,一つの書面としての流れを作るという実務的な考え方を学べたのはすごく良かったと思います。そのかわり,よく怒られました(笑)。

――大関さんの,訴状の方はどんな感じでしたか?

O:チームで担当したのが労働関係,賃貸借関係,債務整理の3つで,私は労働関係(不当解雇)を主担当しました。訴状を作り,松岡さんのような分量はなかったのですが,要件事実を意識して,今回その労働関係でお金を要求するための要件は何か,そこを絶対もらさないようにしつつ,骨組みだけじゃ駄目だよということは要件事実の授業のときにも言われていましたから,それを意識して,バックグラウンドとか,この人がこういう生活をしていて,こういう性格で,といったこともねじ込みながらストーリー性を,いかに要件事実を落とさずにストーリーをつけていくかというのは意識して作りました。だから,たぶん松岡さんほどハードなことはやっていないんですけど,落としてはいけないところ,拾わなければいけないところをちゃんと拾いつつ,骨組みだけではなくてちょっとこう,肉付けをしながら文章を作っていくというような訓練はできたかなと思っています。

――話は変わりますが、LCは他の科目に比べて、時間と労力がかかると学生の間では言われているようですが、その点で受講するかどうかについて、迷いはなかったんですか?

O:正直2年生の時に上級LCを取るかどうか悩んだ時期もあります。書面作成や,ヒアリングで時間外に授業が行われる場合もあると聞いていましたから,それで時間が取られてしまって,試験対策というよりは,予習をする時間がなくなるのではないかと思いました。ですが,先輩たちからいろいろと話を聞いたりしていて,最終的にはそういう経験ができるチャンスはなかなかないですし,将来もし試験に受からなかったら,弁護士実務を覗き,体験するラストチャンスかもしれませんので(笑)。

――それは後ろ向きな理由ですね(笑)。

O:あとは,実務に出るにしても,実際に弁護士がどういう風にやっているのかということを見て経験しておくというのは非常に重要だと思いました。それで,取ろうと思ったんですよ。その私の経験も踏まえて,今の3年生達にはぜひ取りなさいと話をしていたんですが,蓋をあけてみると,取った人がすごく少なかった。

――今年(平成20年度)は少なかったですね。

O:それで,私たちの1期先輩とか,今の3年生でLCを取らなかった人の話を聞くと,数人しか話を聞いていませんが,やはり試験対策で時間を使いたい,自分の勉強で時間を使いたいという意見が多いんですよね。で,そういう意見を言っている人というのは,たぶんLCでやっていることが試験に直結していないという考えを前提にしているんだと思うんですよ。おそらく。ただ,その前提は正しいのかというと,私は違うと思うんですよね。試験に直結していると私は思うんです。なので,今の2年生以下には,そういう意味で是非履修して欲しいと思いますね。

――なるほど。松岡さんは,迷いましたか?

M:迷いませんでした。

――さっきの話からすると,是非にでも実務をやっておくべきだということになりますよね。

M:そうだと思います。実務家になるための大学院ですから。試験に受かってから修習で学べばいいと思う人がいるかも知れませんが,弁護修習は2ヶ月間しかありませんし,少しでも多く体験しておくことが大事だと思います。
実践のイメージがわきながら勉強するのとイメージがわからないまま学問として勉強していくのとでは全然違うと思うのです。そこに気づいていただければと思うのですが。

――時間を取られることへの不安は特になかったですか?

M:ありました。ある程度は覚悟していたのですが,取られるといっても,そこまでではないだろうと内心思っていたんです(笑)。
たまたま私の班は特殊で,結果としてかなり時間をとられました。
ですが,時間がかかるからといっても十分に貴重な体験をでき,前述のとおり試験勉強に役立たないということは全くありません。一つの問題を,短時間内に解くのではなくて,長く時間をかけて解くのも,試験に対する訓練の一つだと思います。

――クリニックを取ろうかどうか迷っている2年生や,これから入ってくる学生へのアドバイスは?

O:新試の問題を解くプロセス,考え方の筋を考える力が身に付きます。具体的な問題については,個々の問題次第なので何とも言えませんが,ただ,その問題を見てどういう風に考えてどういう風に文章を作っていきたいのかという筋自体はLCの勉強で身に着くと思うんですよ。そういう意味では,確かに労力はかかりますよ。うちの班は松岡さんの班ほどではなかったですけど,それでも3人で相談したり,ヒアリングした資料などを見ながらどうしようか考えたり,過去の類似事件を見ながら例えば損害賠償の金額をどれくらいで書くかとか,そういうことをいろいろ調べたり,労力はかかります,正直。ただ,それに比べて,得られるメリットは大きいと思うんですよね。やっぱり,過去問をやっていたり,判例の読み込みをやっているだけではできない部分というのが,生の事件を扱う上で得られるところが大きいと思うんです。だから,そういう意味で,これからLCをやろうかなと思っている2年生以下には是非やってほしいなと思いますね。

M:私が2年生の時の初級LCのときに,すごく印象的だったことがあるんです。

――初級というのはシミュレーションによる模擬裁判授業ですね。

Mはい。それは初回の授業の,法律相談シミュレーションのときですが,(依頼人役が)「どうしたらいいんですかね」と言ったときに,他の学生が問題とそれに対する解決のイメージが全く見えていないから,どう答えていいか全くわからず,「そうですねえ・・」と言っているだけだったのがすごく印象的でした・
つまり,具体的な事件があって,解決するにはどうすればよいかが全く頭に浮かばないから,調停案を提出できないし,和解した方がいいですよとか,訴訟しましょうとか,全く言えないわけですよ。何をしたらいいのか分からないみたいです。
LCで,実際の事件に直面して解決策をいろいろと学んで,経験していれば,このようなことにはならず,適切な提案できたのではないかと思います。

――その時点で皆さん民法や民訴の基本的な法律知識なんかは入っているんですよね?入っているけれど,活用できない?

O:どう使うかがわからない。

M:わからないのです。民事の基礎知識が入って,手続きや制度を知っていても,経験がなく,やったことがないので,実際の事件にあたっても,知識が活用できない。
同様にLC上級のような体験をしたことがないため,知識としてはあるが,それが実際に試験問題に出てきても,どう使っていいのか分からないのです。

O:自分がどうしたいのかという結論がないと,そこに向かう道を自分で作っていけないんですよね。

――請求されていることに対して,依頼者の立場で答えるというか,請求を拒むための何かをしなければいけないということは分かるんですよね?

M:わかります。

――その手段が選べないということですか?

M:選べないのです。

O:私は,その当時は松岡さんとレベルが違って,とにかく分かっていないですから,そういう,例えば調停があるとか,そういう方向に自分の頭が行ってないんですよね。事案をよく覚えていないんですが(笑),何か聞かなきゃと思いつつ,何を聞いていいのかがよく分かっていなくて,たぶん頓珍漢な事を聞いていたのかもしれません。そこは結局,何がしたくて,それに向かってどういう風に道をつけていくかというそのプロセスが自分の中でできていなかったからだと思うんですよ。試験にしても,やっぱり理論を組み立てていった先に結論があるわけではなくて,だいたい問題を読んで,どういう方向で書きたいかと考えるじゃないですか。じゃ,こういう方向で書きたいから,この事実はこういう風に評価しようとか,私はそういう風にやってたんですよ。で,それも,どうしたいのか,それならこうしたらいいというプロセス自体が分かっていないと,たぶんできないと思うんです。そしてこれは,法律問題につての知識とはまた別だと思うんですよね。それは授業でやる演習科目という判例を題材として扱うものとはまた少し違うプロセスだと思うんです。授業でやっているのは逆で,事実が与えられていますから,この事実からどういう風に行ったらこういう結論になるよね,ということですよね。基本は。

――授業はもう筋道があるものの,ゴールまでの辿り方をもう一回勉強すると。

O:それがメインです。でも,新司法試験の問題は,そうじゃないんですよね。事例だけが載っていて,この事例を見て,自分がどういう方向で解決したいのか,つまりどういう風に結論付けたいのかというのを思い描いて,それから,じゃあこの事実を拾って,この事実も拾って,どうのこうの,で考えていって,文章を作って,というように私はしていたんですよ。このやり方は,LCじゃないと,なかなかうまく掴めなかったかな,と思います。

――最後に,今後LCを受けるであろう後輩達にメッセージをお願いします。

M:前述のとおり,知識を実際に利用する場面を学ぶことによって,はじめて大学院の授業で学んだ理論や知識が役に立つと思います。
学んだ知識は,このように実務に生かされて,たとえば書面に現れているのだということを確認する作業としては,とても重要であると思います。
時間的な拘束については,自分で時間をうまく作るのも,一つの勉強だと思っていただき,そんなことを苦にして受講をやめるよりはぜひこの機会を利用していただきたい。ここ以外では短い修習でしかできないような体験ですから,ぜひこれを利用していただきたい,と思います。

O:結局,法科大学院に入ってくる学生は新司法試験に合格することを当面の目標にして入ってくるわけじゃないですか。で,その学生は大多数が実務家になりたくて来るんですよね。新司法試験の傾向も実務を意識した問題になっていると思います。そうすると,やはり,理論的な部分は絶対に必要ですけど,ただ,そこだけをやっていていいのかと思います。
法科大学院は理論と実務の架橋とよく言いますが,実務的なことがある程度頭に入っていないとやっている理論がどういう風に繋がっていくのかというのがよくイメージができない。なので,そういう部分は,まず実務的な経験をすることで,その理論的な部分が繋がってくるという風には思います。その実務の経験をするチャンスが3年間でどれだけあるのかというと,このLC上級を除いてないと思うんですよね。
だから,そういう意味でも,司法試験の合格を目指すうえでも,有意義な授業になりますから,時間が取られるのは確かです,楽な授業じゃありません,けれどもそれにかけた労力に余りあるだけの,得られるものは必ずあります。
それを自分がどう活かすかは自分次第であって,それが役に立ったと思うか思わないかは自分の意識と取り組み次第なので,LCを経て,時間もかけつつ苦労もしつつ,そこで得たことは新司法試験に絶対に役に立ちますから,ぜひやって欲しいなとはと思います。

――今日はありがとうございました。

(渋谷パブリック法律事務所演習室にて)